
劇場で観てからしばらく経ってしまいました。
でも、しばらく経っている割に同じ日に観たデトロイト・メタル・シティのクラウザーさんの顔をサイトやテレビで見る度に、この映画の悪役、ジョーカーの顔も浮かんでたまりません。刷り込みとは怖いものです(笑)
アメリカでの数々の記録を塗り替えただけある『ダークナイト』ですが、そういった話を聞く度に納得。
2時間32分の長い上映時間で、余計なことを考えさせず、これだけ目をそらさせない映画は無かったと言えるでしょう。
いつもスクリーンの中に没頭しながらも、つい突っ込み所を探してしまう私ですが、この映画に関しては、劇中で数回あるバットマンとゴードン警部補の会話シーンで、話の締めくくりのないまま突然バットマンが消えてしまう所に「──っておらんがなっ!」というメタツッコミ(展開中の世界観を無視して客観的な立ち位置から入れるツッコミ)を入れる程度でした。
内容の重さと隙のなさに粗探しのしようがありませんでした。完敗です。(--;)

さて前作「バットマン ビギンズ」のリアル路線をそのまま継承した今作ですが、リアル路線を追求した結果、最も嫌な敵であるジョーカーがまさに悪魔のようなキャラクターとして登場。
したたかに計算された計画、大胆すぎる行動、バットマンすら挑発に乗せ、後半には新たな悪人トゥーフェイスを生み出す極悪話術などは、ただ暴れるだけの怪物を通り越して、悪意を伝染させる存在として本当に悪魔のようでした。これを演じきったヒース・レジャーが凄い。
バットマンの正体を明かすことを条件に、無差別に1日に一人ずつ殺すと街ぐるみで脅迫し、しかも殺されているのは無差別と言いながらバットマンや市の治安に関係する人たち。
市民の不安をあおりつつ、治安を低下させるという恐ろしく計算された悪魔っぷりがラストまで続くのですから、一瞬も目をそらせませんでした。
目的は正義の否定という、こんなどうしようもない敵を相手にしなくてはならないバットマンは大変に分が悪い。
正義など人の心にないという証明、仮にあったとしても堕落と破壊なんて結末が目的で、しかも自分が倒されてもトゥーフェイスという新たな悪意で絶望的な罠を念入りに張り巡らせる周到ぶり。
元々ヒーロー側は悪に対して対処療法しかなく、後手に回るのが常で、そんな不利な状況の中、なんとかして悪の企てを防ぐのがヒーローの醍醐味なわけですが、それすら上回り、ギリギリどころかバットマンに街中の携帯電話の盗聴までさせるほど。念には念を入れきった人質の立てっぷりには震えが走りましたわ、ホント。
ここまで徹底した人の悪意を描かれると、それに立ち向かうバットマンやゴードン警部補の活躍が虚しいくらいに感じます。
徹底しているといえば、今回のカーアクションも徹底してます。
前回に引き続いての登場、バットモービル・タンブラー。屈強さと機能の固まりみたいな形に魅了された人は多かったらしく、実際に作っちゃった人もいたようですが、その気持ちわかるなぁ。
ぶつかっても平気そうなマシンですが、劇中では思う存分にガンガンやってくれます。
でも、この中から今回の主役マシンバットポッドが出てくるのには驚きました。どこにそんなスペースが!?
バットポッドのバイクなのに無駄に太いタイヤは、多分タンブラーのパーツ流用だろうと思っていたのだけど、出てくるシーンからすると全く別物のようでした。
すげぇ、どこに入っていたかもわからないよ。
最後の最後、法で裁くには限界のある悪に対しての抑止力は何か、揺るぎやすい市民を犯罪に立ち向かえるようにどう導くか、その答えがバットマンの選んだダークナイト(闇の騎士)でした。
ラストのゴードン警部補の息子の言葉「なぜ彼は逃げなくてはならないの?」。
誰かの犠牲の上に成り立つ正義。本来それはあってはならないものなのでしょうけど、そういった存在に成らざるを得ないバットマンの辛く悲しい姿と、愛する者を失った怒りを、自分に負けずに静かに燃やす強さが胸を打ちました。
それにしても、こんな良い映画作っちゃって、この後大丈夫なんでしょうか。
エンドロールが終わって現実に戻された途端、違う方面で心配になりました(笑)
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